海苔漁師の1年間〜脱サラ新米漁師の12ヶ月全記録〜
30代でサラリーマンを辞めて、宮城県七ヶ浜の海苔漁師になりました。
「海苔の養殖って、何をしてるんですか?」
漁師になる前の私も、正直よく分かっていませんでした。スーパーに並ぶ焼き海苔からは、海の上の仕事がまったく想像できないからです。
この記事は、新米海苔漁師として過ごした最初の1年(2022年8月〜2023年8月)の全記録です。毎月書きためた日記を、1本の読み物にまとめ直しました。
読み終わる頃には、焼き海苔1枚の見え方が変わっているはずです。
海苔養殖の1年は「8月」から始まる
意外に思われますが、海苔のシーズンは夏に始まります。私が8月に転職したのも、8月が海苔養殖の年度初めだからです。
ざっくり言うと、1年はこう流れます。
| 時期 | 作業内容 |
|---|---|
| 8月 | 陸上での準備・種付け(採苗) |
| 9月 | 松島湾で海苔の子供を育てる(育苗) |
| 10月 | 沖の漁場へ移して本養殖 |
| 11月 | 初摘み |
| 12月〜3月 | 摘採・加工・出荷の最盛期 |
| 4月 | シーズン終了・撤去 |
| 5月〜7月 | オフシーズン(道具の補修) |
では、月ごとに見ていきます。
8月:海苔づくりは水槽から始まる
最初の仕事は海ではなく陸の水槽でした。
海苔の「種」にあたる糸状体(しじょうたい)を水槽で育て、海水ポンプの配管を組み、種を海苔網に付ける「採苗(さいびょう)」を行います。皆さんが食べている海苔からは想像もつかない、小さな小さな状態から海苔は始まります。
サラリーマンから転職して1ヶ月目。まさか漁師の仕事が配管工事から始まるとは思いませんでした。
9月:日本三景・松島湾で子育て
9月になると海上作業が始まります。舞台はなんと、日本三景で知られる松島湾。
ここで海苔の子供を育てる「育苗(いくびょう)」をします。小舟を整備し、浮上筏(いかだ)を組んで湾内に設置し、台風が来れば待機。海苔の子育ては、景勝地の真ん中で行われています。観光で来ていた海が仕事場になった瞬間でした。
10月:沖へ引っ越し、本養殖スタート
松島湾で育った海苔の子供たちを、沿岸の漁場へ移します。松島で子供を育て、沖で大人にするイメージです。
網を洗い、海苔芽の成長を確認し、干出(かんしゅつ=網を空気にさらす作業)を繰り返す。海苔は放っておけば育つものではなく、毎日世話をする「海の畑」でした。
11月:はじめての摘み取り
8月から育てた海苔を、ついに初摘み。
成長が思わしくない網があったり、色が薄かったり、うまくいかないことだらけでした。だからこそ、最初の摘み取りの喜びは忘れられません。
摘んだ海苔は「焼き海苔」ではなく「乾海苔(ほしのり)」という状態で出荷されます。皆さんが食べる焼き海苔は、この乾海苔をさらに加工したものです。
12月:育てた海苔が、値段になる日
摘み取り→加工→出荷の一連の流れが、12月にひと通り完成しました。
乾海苔は漁協に出荷され、検品で等級が決まり、競りにかけられて値段がつきます。8月から世話してきた海苔が自分の手を離れ、誰かの食卓へ向かう。農作物と同じで、海苔にも「出来」と「相場」があります。
1月:皇室に献上される海苔が決まる
新年、宮城県では皇室献上海苔を決める品評会が開かれます。県内の海苔屋が出品した中から、上位2点が皇室へ献上されます。
この時期は毎日が摘み取りと乾海苔加工の繰り返し。同じ作業の反復のなかに、県一番を競う世界があることを知りました。
2月:最盛期。そして海苔の大敵「モク」
海苔養殖がいちばん忙しい月です。雪が降る海の上で摘み取りを続けます。
この時期の敵はモク(藻屑)。海苔に混ざる別の海藻で、これを取り除く作業が延々と続きます。海の上でも、乾かした後でも、モクとの戦い。地味ですが、海苔の品質はこの地味な作業で決まります。
3月:海苔の「色落ち」とシーズン終盤
春が近づくと、海の栄養が減って海苔の色が薄くなります。「色落ち」と呼ばれる現象で、こうなるとシーズンは終盤です。
最後の摘み取りをして、出荷作業も締めに入ります。
4月:シーズン終了、海の撤収作業
最後の出荷を終え、海に張っていた海苔網や筏を撤去します。8ヶ月間の養殖シーズンが、ここで無事終了。
海から仕事場がなくなる感覚は、農家さんの収穫後の田んぼに近いのかもしれません。
5月〜7月:オフシーズンの漁師は何をしているのか
「夏の海苔漁師は暇でしょ?」とよく聞かれますが、意外とやることがあります。
- 5月:海苔網の洗濯。来季も使う網を1枚ずつ洗います
- 6月:網の補修と整理、筏の修理
- 7月〜8月:来季の準備をしながら、次のシーズンへ
道具を直し、網を仕立て、また8月が来る。海苔養殖は1年でひと回りする循環の仕事でした。
1年やってみて分かったこと
サラリーマンから海の上へ。1年回してみて、いちばん変わったのは海苔を見る目です。
コンビニのおにぎりの海苔にも、誰かの8月の配管作業と、11月の初摘みと、2月のモク取りが詰まっている。そう思うと、海苔1枚を雑に扱えなくなります。
「素人が漁師になんてなれるの?」と思った方は、こちらの記事もどうぞ。
海苔を育てる側を1年やってみて、いまは「どの海苔を選ぶか」のほうに関わっています。「NORITEIN」という名前で、酸処理をしていない焼き海苔と、海苔からつくったプロテインを扱っています。
また次回の記事でお会いしましょう。それでは〜
